ぼくのお兄ちゃん
お使いを済ませて帰る途中、ふと見かけた猫を追いかけていたら見知らぬ道に来てしまっているのに気がついた。
(…建物雰囲気は変わらないから裏道…なのかな)
少し近くを歩いてみるけれど、見知った道には出られない。
(どうしよう…人も見当たらないし道も聞けない…)
困り果てていた、その時だった。
「よォ〜、ヤノ。こんなところでなあにしてんだ?」
ふ、と影に覆われると同時に聞きなれた甘い声が降ってくる。
「お兄ちゃん…!」
「おお?なんだ、泣いてんじゃねーよ…ったく」
兄に会えたことで安堵したぼくは泣いてしまったけれど、背の高い兄はなにも言わずに大きな手で頭を撫でて落ち着かせてくれた。
「そうか、ヤノはこの辺は初めてなんだなぁ。…よし、ちょっと付き合え」
そういうと兄はぼくの手を引っ張って歩き出した。
「この辺は個人作家のアトリエが多いんだよ、珍しいもんが沢山ある。きっと楽しいぜ?」
そう言って笑う兄の笑顔は、写真とか本で見るお仕事の顔じゃなくて、まぎれもなく"ぼくの兄"だった。