小話

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サーカス団とエニー、そして父になる

「おーい!そっちはどうだー!?」
「こっちには見当たらないわー!」
あちこちから団員達の声が飛び交う中、迷子の姿はどこにも見当たらない。
「ねぇ、ドゥダさん。本当に見たの〜?」
「オレを疑うってのか!?見た事ねぇナリの子供だったよ、オレを見るなり逃げちまったがな」
だよね、とその場に居た誰もが思ったが口にしない。
しかしもうすぐ日が暮れるのでそれまでに見つけないと、その迷子が危険な目に遭いかねない。
「で〜さぁ、そのコってどんなカンジなのぉ〜?」
「ン?ああ、そうだな…パッと見だったがツノがあったな、あと…は、四つ脚で……」
その言葉にその場に居たメンバーは一斉に一点を見た。
「えっ、待って。なんで俺見てんの??」
ダンサーのセームは慌てる、全く身に覚えがない、あるわけない。
でも皆の目が言っている…ひょっとしてお前…と。
「言われてみりゃあ、似てた気もするが…」
「ドゥダさん待ってぇ!これっっぽっちも可能性なんかないからあ〜!!!」
疑われた彼の叫びが、日暮れ間近のサーカステントに響く。

「ンフフ、慌てるなんて怪しい〜♡…やあねぇ、冗談よォ〜!」
「メリーダさん…冗談でもやめて下さいお願いします……」
そんなやりとりにひと段落がついた、その時だった。
「おーい!見つけたぞ、この子かドゥダ」
珍しい獣を管理しているスペースから、曲芸師のレンが一団に向かって歩いてきた。
その手には小さな手足をぷらりとさせて、その小さな体躯のわりに大きなツノを持った子供が、いた。
何も身につけていないようで、レンの上着に包まれている。
「ああ、間違いない」
「よっし、団長クエストクリアだな!…しっかし…」
皆言いたいことは同じなのだろう、皆の視線はダンサーのセームに注がれている。
当の本人に全く覚えがなく、どうしたものかと珍しく狼狽えているようだ。
「ほーんとそっくりねェ〜、覚えはないのン?」
「ない、あるわけないって…」
「落ち着けって!さ、君名前は?どこから来たのかな?」
レンが優しく問いかけると、その子はそこにいる団員達を2.3度見渡してからセームに目を止めて
「んま!」
と元気よく答えたがために、彼はとうとう崩れ落ち、団員達は何とも言えない空気に包まれたのであった。

「なるほど、この子が兄さんの…」
「(すごい…ちいさい……)」
見慣れない空間にキョロキョロと辺りを見回しながら見るものに手を伸ばす小さな子供に、セームの弟たちはキラキラと目を輝かせている、もう1人弟が増えたような感覚なのだろう。
「じゃあ、お兄ちゃんたちはあの子から見たらおじさんになるの??」
「まって、待ってナヴィ、お兄さん、そこはお兄さんにしておいてぇ…!」
首を傾げてまっすぐ見つめて来る妹の純粋な発言が容赦なくセームを襲った、それはまだまだ若い弟妹達に当てはめるのはどうなのと葛藤する。
それは仕方がないだろう、いきなりサーカス団に現れて、預かって帰ったら父と兄に責任を取れと言われてからまだ日は浅いのだ。色々と、お互いまだ馴染んでいないのは無理もないだろう。
「(でも、まぁ……)」
父から聞かされたのは、この子が自分たちとは違うものだということ、そしていつも踊っていた場所の樹の半身だということ。色々衝撃ではあったけれど、ストンと腑に落ちたのだ、なにより自分に会いに来てくれたなんて言われたら放っておけるはずが無い。
「そんなわけだから、みんなエニーと仲良くしてやってね。新しい家族、だからさ」
そういうと、大声で言ったわけでも無いのに弟妹たちにはこちらを見てくすくすと笑いだした。何故かと問う。
「…ふふっ、だってさあ兄さん」
「なんだか、すっかり」
「パパみたいなんだもん!」
そう言われ、赤面するまであと5秒─。

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