巡り会えないのに芳しさだけ思い出して

巡り会えないのに芳しさだけ思い出して

分かりやすい入道雲を見た真夏日
私は吸い込まれるようにその店の扉を開けていた。

(この場所に前からこんな店あったっけ…)

ひんやりとした店内はアンティークのランプでおだやかに染まり、外とは違う夕暮れの色をしていた。
どこを見ても店主の好きなものしかここにはないだろう。
そう思わせる「舶来品」の数々
中でもずらりと並んだブリキのおもちゃが目を引いた。

入口に並べられたポプリが醸すマグノリアの香りに包まれながら店を後にすると、まるで白昼夢から醒めたように
夏の日差しが襲ってきて眩暈がした──

メリッサはアンティークショップを営む、
「善」で満ちた穏やかな女性というイメージです。

彼女がその店で何を売っているか、時々考えることがありますが
私はあの暑かった日の散歩道…前述の自身の体験を思い出します。

新たな出会いであったはずなのに
忘れていた好奇心と再会したような
そんな瑞々しい気持ち

私は物心ついた頃から「お人形」が好きでした。
いつしか「お人形遊び」から離れていく周りのみんなと、
中学生くらいになってもドールへの関心が捨てられない私。
地元の書店でドールの専門誌を立ち読んでいたら同級生が
入ってきて、慌てて棚に戻したことを思い出します。
兄が買ってきたプラモ雑誌の広告に載っている球体関節人形を眺めながら
お年玉何回分かな…と想像したことも…

いつか、と夢見たお人形。
メリッサは私にとってはじめてのスーパードルフィーでした。

お披露目されていた彼女を見て、思わずレジに駆け寄り「どうすればこの子をお迎えできますか…?」と直球を店員さんに投げてしまったことも、いま思い返すと笑い話です。

グラッセと同じように偶然浮かんできた言葉を名づけましたが

「メリッサ」とはレモンバーム、香水薄荷の学名だそう。
花言葉は「思いやり」 感傷的な気分になったときにそっと寄り添ってくれる豊かな緑の香り

夏の終わりに咲くという小さな白い花は、
彼女が最初に着ていた白いドレスによく似ていました。

私と出会ってくれてありがとう。
目を合わせるたびにそう思える、大切な存在です。

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