シルヴィーの話(創作)

シルヴィーの話(創作)

(自ドールの創作設定です。ドール化出来ていない部分を含みます。後で追記、修正、削除などする場合があります)
シルヴィーの過去話。

 

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それは世界創世神話。あるいは歴史の教科書にも載っていない、遠い遠い御伽話。
かつてこの世界は、『人間』という貧弱な種族が支配していたのだという。魔法も使えない、みんな似たような形の生き物たちが。
ある時代、何の偶然か神の采配か、頭に角を持ち、魔法を使う『人間』が生まれ始める。彼らこそが私たちの祖先である最初の『魔族』。魔族は人間より優れた生命としてあっという間に人間を滅ぼし、世界の支配圏を手に入れた。その次は魔族同士で争い始めた。より多くの富を、土地を、権力を得る為に。
世界には『獣』が居た。かつて人間に支配されていた、力は強いけれど知能のない者たち。魔族は魔法で獣と融合し、獣の力を手に入れた。自然と同じ獣と融合した魔族同士は寄り集まり、やがては子を成した。獣の種族単位を家族とし、他の種族と戦い始めた。
これが、今生きる魔族たち……『魔狼族』『魔猫族』『魔鳥族』などのおこりなのだ、という。

私たち『魔人族』は、この神話から少し外れた、独自の神話を持っている。
曰く、「獣などという知性も無いけだものに落ちぶれた軟弱者とは違う、神から与えられたかつての姿を残す我々こそが真なる魔族である」と。
魔人族は他の魔族よりだいぶ弱い。家単位ではなく大きな群れとして残っているのは、私たちの一族のルーツである東の島国くらいしか無いと聞いた。その国はもう他種族への侵略を止め、代わりに自分たちの領土だけは絶対に獣たちには侵させない、という強固な鎖国姿勢を取っているそうだ。
私たちの一族は、「魔人族だって強いのだ、獣たちに目に物見せてやる」と意気込んでそこから出て来た、いわば過激派。魔人族の中でもより角が大きく、体が大きく、魔法の強い者たちを優先的に婚姻させ、いつか強大な魔力をもって獣たちを全員ぶち殺し、神に選ばれし魔人族の手に世界を取り戻す、と息巻いている。
そんな家に生まれた、私は。

「お嬢、そろそろ時間じゃねーか? またオカンにドヤされるぞ」
「……そう」
私は本を閉じて椅子から立ち上がる。読んでいた本は、元あった屋敷の書架の中に。膝の上に置いていた革張りの本も一緒に手に取り、いつも入れている太腿のホルダーに入れた。
「俺様が言えたことじゃねーけどさー、やっぱお前本の虫過ぎるって。ちゃんと外出て運動したりさ、友達とお喋り……あー友達居ないもんなそれはごめんな! 俺様が友達だから泣くなって!」
「泣いてない」
「俺様的にはありがたいよ? お前が居るからひっさびさに喋れる訳だしさ、でもさーやっぱイタイケな少女の将来とかちょっと心配になっちゃうじゃんね。だから……」
「私の将来に一番必要なのは、知識」
騒ぐ声を遮って歩き出す。貴重な昼休みは終わり、そろそろお母様に呼ばれる時間だ。またお母様の小言を小一時間聞かされるのだろうけれど、そんなことはどうだっていいから早く本を読みたい。もっともっと知識を付けたい。学ばなきゃいけないことが沢山ある。だって私は。

「ブラン!? 居るならさっさと来なさい!」
「あーあ、オカンキレてんじゃん」
「うるさい」
指で弾いて声の主を黙らせ、お母様へと向き直る。
お母様のブルーグレーの瞳は怒りに燃え、結い上げたアッシュブロンドの髪の上には長く大きな角が生えている。その手が乱雑に私の頭をはたいた。髪の下には何も生えていない、丸い頭を。

「相変わらず我が娘ながら陰気ね、この角無し!」

魔族なら必ず生まれた時、もしくは生まれてすぐに生えてくるという、体内魔力の析出した結晶。それが大きければ大きいほど、体内の魔力を魔法として体外に放つ能力が優れている。つまり魔族全体の一般常識でも、強さを求めるこの一族の中でも、角の大きい方が偉い。
その角が、私には無い。ほんの少しも。ひとかけらも。

「全く、アンタがそんなみっともない姿で生まれたせいでアタシはとんだ恥晒しよ! 家に申し訳ないと思わないの!?」
「特には」
「そういう態度が腹立つんだって言ってるでしょう!?」
「私がどんな態度でもお母様が私を愛することは無いのであれば媚びるだけ時間の無駄かと」
「まーーーっ可愛げのない! 角と一緒に一般常識まで捨てて来たのかしら!?」
「少なくともお母様のお腹の中に置いて来たのではないと思います。それであればもう少しお母様も『常識的』な言動が出来ると思うので」
「あ、あ、アンタねぇっ……!」
「おーいお嬢、毎度オカン煽るのやめろってーすぐキレるから楽しいのはわかるけどさー」
お母様には聞こえないよう私に呼びかける声は意図的に無視する。お母様のお怒りは慣れたので無視する。特に興味が無い。早く終わらないかな、本が読みたいな、とぼんやり思いながらお母様の小言に相槌を打つ。

私には夢がある。いつかこの屋敷を出て独り立ちをすること。こいつは、まあ、騒がしいし役に立つから連れて行ってやってもいい。
誰と争わなくてもいい。領地も権利も要らない。ただ私を愛し、私が愛せる人と出会って、その人と静かに生きていきたい。
だからその為に知識を。魔法の使えない私でも、この世界で生きていく為の知識。いつか出会う愛する人を守れるだけの知識。こんな家を捨てて、どこまでだって行けるようになる為の知識が欲しい。

「……聞いてるの、ブラン!?」
「聞いていませんでした、お母様」
「なっ……す、少しは悪びれなさいよふざけてるの!?」
「お母様と違ってふざけているほどの時間は無いです」
「はああああっ!?」

堪えきれなくなったのか、ゲラゲラと男が笑う。その声は私にしか聞こえない。
「……グリさん、うるさい」
私はもう一度、スカートの上から指で太腿の本の表紙を弾いた。いてっ、と軽く呟いて本は黙る。
「何か言った!?」
「いいえ、お母様に言う事は特に何も」
「アンタねぇっ……!」

これは世界創世神話でもなく、教科書にも載っていない。角無しの少女と、少女にしか聞こえない声で話す革張りの魔導書、なんて。
まるで御伽噺のような、そんなお話。

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