ちょっとしたものがたり。

ちょっとしたものがたり。

《魔女の小さな弱みは》

ダウスタラニスはネージュの主である、魔女イルシーの薬屋だ。
森の中にあるログハウスのような造りで、店内は壁一面が本棚になっている。
吹き抜けの上の方まで本棚があり、そこから本を取ってくるのも最近のネージュの役目だった。

とは言え、夜も深いこの時間。
主であるイルシーはとっくに部屋に戻り就寝中で、ネージュもまた暖炉の前のソファで微睡んでいた。

「…っと、…イルシー…?」

不意にとすん、とお腹、と言うよりは胸の上に抱き着くように衝撃がありネージュは目を開く。
最も、木材の床板をコツコツと歩くイルシーの独特な足音は聞こえていた為驚くことは無かった。

「…どうしたの?眠れナイ?」
「…………」

問いかけにも反応はなく、ただネージュの胸元にふわふわした獣の耳が当てられている。
ほんの少し、ツノが痛い。

「どうしたのイルシー…魔女でも寂しい時があるノ?」

まるで甘えるようにも、縋るようにも見える普段より小さく見える主に、ネージュは目を細めて首を傾げる。

「…………そういう事になさって下さっても、構いませんわ…」

ほんの少しだけ、ネージュに抱き着くイルシーの手に力が篭もる。
図星?と思えば些かネージュも驚いてしまう。
イルシーが弱みを見せるなど、珍しいからだ。

「ふゥん?素直じゃないなァ…まァ、そういうトコ、可愛くて嫌いじゃナイけどねェ」
「……煩いですわ…」

イルシーの薄桃色の混ざる銀髪を優しく撫でつつくすくす笑えば、小さな声が文句を呟く。
それでもまるで心音に耳を傾ける様に、ネージュが生きている、と確認するように。
暫くイルシーはそうしていたし、ネージュもまた、イルシーが再び眠りに落ちるまで優しくその髪を撫で続けた。

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