蔵書整理と夜のうた
かた、こと、と。
柔らかな物音が聴こえたので
覗いてみれば、翠の少女人形の姿。
有り物の簡素な本棚に向かって、
腕には主人お手製の本を抱えて。
……本の片付けをしていましたの……
白いばかりの手が、そう語るように動く。
日はとうに落ち、
枕灯の琥珀色の光が
この古く狭い棲家《へや》を微睡みへと誘っている。
未だ読んでいない本に触れた彼女は
紙面のインクに誘われ、
そろりと表紙を開いてしまう……
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蔵書整理と、その間隙での読書を
とうとう終えたらしい少女に、
「気に入った本はあった?」と声をかける。
少しの間を置いて、彼女が指し示したのは
主人の本棚の方向であった。
彼女が選んだのは、一冊の古い楽譜《スコア》。
「特別だよ」と言って取り出してやる。
それは、少女人形にとっては存外大きかったらしく、
彼女は僅かに目を丸くして、表紙をめくる。
やがて、嬉々として目次を視線でなぞりはじめる。
頁を進めていく少女を困らせようと、
「読み聴かせてよ」と悪ふざけを言ってみると、
彼女は旋律を口ずさむ――
それはわたしには聴こえない声。
それは硝子の流動のごとき音。
……ねぇ、どうでした? 感想を。
気がつけば、そのように彼女の瞳が問うている。
困ってしまったわたしは、
頁をめくってやり、「アンコールを」と唸ってから、
少女が満足気に微笑んだのを、そっとカメラに収めた。
了
2022.06.06
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あとがたり
せっかく6人いるので、月替わりでプロフ画像を変えよう、ついでになんかSSっぽいの書いてみよう、という試み第1回目でした。
今月はスイ。
写真と文章は月初めにできていたけれど、投稿場所に悩んで、気がつけば6月も終わりそう。
こんな私的なことにDollroomで投稿していいのだろうか……だめだったら誰かご指摘ください。
さて、6月とは思えない気候の今日この頃。
雨の日や猛暑の日には、部屋にこもって読書をして過ごしてみるのはいかがでしょうか。