ビロードっておまえ、お前なんなんだよ!!1③

ビロードっておまえ、お前なんなんだよ!!1③

そのうち完成したら3つ目のビロードの話をしようと思ったらもう既にビロードは4人も存在した。
何を言ってるのかわからねーと思うが、俺はちょっと楽しかった。
今日はその話をしようかなと思っている。

※今回もまた制作過程の話と妄言がごちゃごちゃする上にそんなに役立つ話はないので、興味のない人は写真だけ見ていくとかそうすればいいと思います

 見て、かわいいでしょ。これが第3のビロードになるはずだった【サイコ】のビロードだよ。
 My Dollのページも先に作ってあって本当は07番の記事はこのビロードになるはずだったのに制作に一か月もかかったせいでどんどん後続のドールに順番を抜かされて哀れにも10番になってしまったビロードだよ。かわいいね。
 ていうか本当はこれより前にもう一人出来てるから11番になっててもおかしくなかったんだね。めちゃくちゃだね。

 なんでこいつはめちゃくちゃなのか。どうして【サイコ】の名を冠するのか。その二つの疑問は『なぜ人は水がなければ生きられないの』『なぜ地球には水がたくさんあるの』という質問をする己の矛盾性に気づかない子供の言葉と同じだ。答えは同じだよ。

『こいつはめちゃくちゃだからサイコなんだよ。サイコだからめちゃくちゃだし、めちゃくちゃじゃなくちゃいけないんだ』

 これがラジ館から買って帰ってすぐに撮った写真。わざわざ母屋に出てまで写真を撮ったぐらいだからよっぽど全貌を見せたかったらしい。
 この時点で台座の星の部分を蛍光色で塗りたくってやろうという魂胆があったのはおわかりだろう。艶消しの追加だの水性サフだのは今後の展開を見据えた購入品として結果的に正しかったことが完成後の今になってよぉく分かった。

 これは土台になっている四角い部分が台座を外すとちょうど小物入れのような空洞になっており、なんかそんな感じに使えますよ~と店員にも言われた。そうなんだ。今どきはドールですらかわいい小物入れになるんだな。おお、なんという贅沢。
 今まで扱ってきたドールたちとは違ってある意味フィギュアやスタチュー的な役割を持つことになるだろうと思い、それを製作者サイドも理解しているというところに真新しさがある。(のちにその機能は付属のパーツ4つとともに失われることになるが、後述)

 この頃から段々制作過程の写真をロクに撮らなくなった。何故かというと作業中にいちいちスマホだのなんだをを出すのが死ぬほどめんどくさいからだ。昔はパステル作業がひと段落するたびに具合がいいだのそうでもないだのとツイートしていたが最近は作業自体が楽しくなってそんな余裕もなくなった。
 これは最初のヘッドのメイク、いわゆるプロトタイプだ。
 今のカスタムと比べれば筆も荒いし、何よりこの頃は(今でもそうだが)ソフビ的造形のヘッド(いわゆるアニメティックな造形)に慣れておらずどうメイクしたものかとずいぶん苦心した。邪悪なイメージを出すために八重歯の造形と合わせたギザ場の描き口にしたのは発想としてはいいと思うがマジで目元がダサすぎる。
 この辺でまた若干やる気をなくしたが、本当に大変だったのはウィッグを作るあたりだった。

パテウィッグはエポパテでなく樹脂粘土や3Dプリンターでやりましょう

 人間無理なもんは無理。ドールのカスタムを始めてからやろうと思ったことは一通りやってそのうちの約2割ぐらいで挫折や失敗を味わってきたが、このウィッグ作成の失敗はその中でずいぶん大きな割合を占めている気がする。
 まずヘッドにラップを巻いてタミヤのエポパテを頭にべたべた張る。ざっくり造形ができたらそれに使えそうな毛束のパーツを別途作成し、瞬着パテと合わせながら削り盛りを繰り返して完成させる。当初のイメージとしてはこんな感じだった。

 だが現実は無常。マジで全然ダメ。ダメすぎてもう悲しくなり、最終的にサイコビロの作成は二週間ほど頓挫衛門になった。もう頓挫も頓挫。泣きそうだった。膝が折れすぎて多関節になりそうだった。ていうかなった。嘘だけど。
 まず乾燥したパテウィッグをヘッドから外し段階でもみあげが折れる。しかも両方だ。残酷なことこの上ない。
 この時点で着脱に関する可逆性を考えていなかった。なぜブラインドドールやねんどろいど系の硬質造形のウィッグは前後でセパレートするのか?それはつけ外しの時に壊れないためだよ。
 そしてさらに過酷だったのはウィッグの内側の研磨だった。サランラップを巻き付けただけのヘッドに棒を刺して粘土みたいにパテをペタペタ張る。中のサランラップはクシャクシャだ。するとどうなるか。
 そう。中はラップが挟み込まれたりしわが寄ってガタガタなのだ。かなしすぎる。
 これに対抗しようとアイサイザーを使うが撃沈。ただでさえ口がトゲトゲのツボの中を磨くような状況でわざわざ粗目のやすりで底を整えようとする前に何か別の方法があると考える脳が俺にあってよかった。

 ちなみに考え付いた別の方法とは『じゃあその隙間にパテをもう一回埋めて成形すればいいんじゃね?』

結果:ばかちん。

 あきらめてこのパテのかなしき寄せ集めは廃棄されました。

 仮ウィッグで写真撮影。この時点で確か買ってから2週間は経っていた気がする。
 気晴らしに手足の爪を塗装したり土台やボックスの塗装を進めたり小物の塗装として初めてのマスキング塗装に挑戦したりはしていたが、依然として全体的な完成までは程遠かった。

 というか何よりも作業工程が多すぎる。そこそこの大きさの箱をまず塗装し、その上にパーツの多い土台を塗り、それから足パーツと胴パーツとヘッドのメイクをしてウィッグを作るのだ。ただ既製品ボディのパーティングラインを落として磨き、組み立ててゴムを引き直し、最後に顔だけメイクすればいいというものでもない。
 まるで大きめのガレージキットを一つ作るような道のりだった。俺はガレキどころかプラモ一つ完成させたことがない(聖闘士星矢の聖衣体系だけなら4体だけ組み立てたことがある)ので、ある意味偉大なる挑戦だったと思う。現に完成はさせたしね。

 ちょうどこの頃にグウェイ(詳しくはMy Dollで探してください)のヘッド及び移動用バッグ作成を始めており、キョンシー的なお札シールやマスキングテープがあったので黒の下地の上に赤・緑・黄色のカラーを垂らし札を貼る、そしてまたカラーを垂らし……という作業工程だった。
 土台の塗装には水性ホビーカラーを薄めず平筆にがっつり取っては土台のふちに乗せて傾けて垂らして乾かすといったような手法をとっていたので、仮に一色塗るにも一日は乾燥時間をとらなきゃいけなかったりして意外と大変だったのだ。本当に。

 そしていよいよ台座と土台の塗装に一区切りがついた時。改めて向き合い、考えることになった。
『不条理・矛盾・不整合を背負うものにはふさわしい顔があるのではないか』……と。

 要するに顔が気に入らなかったってわけだ。ということでおもっきしメイクオーフ!!!
(最近某のオイルタイプのメイクリムーバーが油臭すぎて無理になってきた。ガイアのツールクリーナーで落としてるけど臭いはこっちのほうがましだし十倍速く落ちる。でもシンナーだから素材には悪そうなんだよな。ペイントリムーバーにしようかな。どうですか。何かおすすめがあったら教えてくださいね……)

 ということでメイクオフ、ついでに悲しげな顔にしたかったので目元と口元を削ってパテで再造形。ニコニコ笑顔を消し去ってみました。幸せそうにピースをしてるのに悲しげな表情、これこそ不条理であり矛盾を体現している!すばらしい。
 ここで一つインストラクション。『この手のスキンカラーのヘッドに安易にエポパテを使うのは推奨しない』

 それは何故か。わかるだろう。パテ盛した上から色塗ってパテとヘッドの色差を埋める作業って地味にめんどくせーからだ。
 俺は30MS用のフレッシュカラー(アクリジョンタイプ)と水性ホビーカラーの白を合わせて微調整したがこれでも塗膜で多少の凹凸が出るし、エアブラシがあるならまだしも俺は筆塗り一辺倒なのでどうしても厚みが出るし塗りムラも出る。だからもし白い肌のレジンキャストのヘッドにパテ盛するときは、瞬着タイプのパテでじわじわやるかいっそレジンを調色したりあらかじめレジン盛り用に調色されたレジンを買って使うといいかもしれない。

 ちなみにここで絶対にやってはいけないのは『エポパテの色を隠すために上から瞬着パテを塗る』だ。
 これをやったせいで一日をパテの乾燥、一日をパテの除去に使う羽目になってまじで無意味な時間を費やした。いいか。瞬着パテは塗装の代わりにはならないよ。瞬着パテがエポパテに対してできるのは目消しがせいぜいだ。間違っても色を変えるために瞬着パテを使おうとか考えるなよ。俺との約束だ。

上段中央のヘッドをご覧ください。かなしそう

 これがパテ盛りを終えて下書き+パステルでチーク入れを済ませたヘッド。おお、なんと悲壮にあふれた顔か。
 仕事が終わって暇な時間は基本人形や周辺機材のカスタムに時間を費やす人生なので、こんな風に複数のヘッドを同時並行で作業しているときがある。
 左上からユノアクルスのヘッドをカスタムしなおしているもの、サイコビロ、海外ディーラー製のヘッドに艶消しを吹いてどうするか考えているところ、下段に移ってBlue fairyの古いタイプのヘッド、パテ盛りの練習台にした教室Aヘッドを塗装したので乾かしているところ、LUTSのデカいモデルのヘッド。やることがいっぱいあるとうれしくてたまらないが、正直休みの日に狂ったようにベランダと部屋の中を一時間おきにぐるぐる回ってスプレーだ筆だパステルだとやっているときが狂いそうになる。
 それぐらい完成の見えないまま延々と続く作業はつらいものがある。実際楽しいけどね。

 ヘッドを引き上げたら下書き。基本ソフビ造形のドールに興味がないためTwitterなどで流れてきてもよく見ずにスクロールして流していたが、最近は(流行りなのか)自分の作業工程を無料で映像にして流しているカスタマーが大勢いる。おかげさまでソフビ造形とキャストヘッドのメイクの違いがなんとなくわかってきたので、それっぽくなった。
 母屋のほうの稼業では作業工程はもちろん使っている筆のメーカーすらタダでは教えないというのが当たり前なのでこんなにポンポン技術をばらまいていいのかと思うが、その辺は別にビジネスじゃ無けりゃいいんだろうな……と考えた。現にうまい汁を吸えている身分なのでね。ひひっ。

 八重歯のメイクは口角を下げる工程で埋めざるを得なかったので別途筆で描きいれたがなんか長すぎてイカの口みたいになった。自分に口の中に刺さって痛そうで仕方がない。だがそこも理不尽の具現といえよう。

 俺のカスタムの話?んなもんが役に立つとは思えないが仮に役に立ててるやつがいたとしたらそいつの作品は間違いなく俺みたいなメイクになってると思うからどんどん見せろ。俺は俺のメイクが好きだから、俺スタイルのメイクが流行ったら俺はうれしい。
 ていうか俺の技術を盗む前にまず中華とかのメイク技術を盗め。本とか売ってるから。アリエクで買え。そんで翻訳かけて読め。俺はあの本のおかげで平筆を一本買ったが非常にいい。短い平筆はパステルを乗せるのにちょうどいいんだ。今更国内最大級メーカーのメイクスタイルをこすっても時代遅れだぜ。(その辺は好みによると思います)

 ほんでヘッドをこうこうしている間にボディにも思い切ったギミックを文字通りぶっかける。そう。レジンぶっかけだ。文字通りだ。
 混合ライトに照らされた蛍光カラーの涙を自作のつたないレジンアイが流す姿、実に壮観だね。

 世は大レジンアイ時代と言わんばかりにグラスアイめいたレジンアイが跋扈する今、ドールとレジンの関係はもはや切っても切れない関係性だろう。そもそもキャストだってレジンなのだ。相性が悪いはずがない。

 と思ったか。本当にそう思ったならお前はキャストドールオーナー失格だ。嘘。ごめん言いすぎた。

 ただなんだ。悪いんだな、これが。

 キャストドールとソフビドールの大きな違いとして、(関節のことはさておき)黄変するかしないかという点がある。そう、キャストは黄変する、ソフビはしない。じゃあキャストと同じ樹脂でできているレジンは?――然、黄変する。
 そして第二に、レジン液を固める混合ライトは何を放射している?……UV,そう、紫外線だ。紫外線もまた、キャストを黄変させる。

 だがあえて俺はする。今から、キャストドールに、黄変することを知りながら、レジンをかけ、じっくりたっぷりと、硬化用の混合ライトを照射する。それもたっぷりのレジンを、時間いっぱいのライトで長時間だ!

 キャストの黄変を防ぐためにいちいち買ったドールをばらして洗って艶消しを吹くような人間が何故そんな事をするか。愚行だというか、好奇心の成れの果てだと笑うか。うるせえ。だからさっきから言ってんだろ。俺の話聞いてんのかよ。

 こいつは【サイコ】なんだ。なにもかもがめちゃくちゃでなきゃいけない。なにもかもが矛盾してなきゃいけない。何もかもがサイケデリックで、おかしくて、歪んでいなければならない。
 それは完成した姿だけでない。作られるに至った手法でさえもそうあらねばならないのだ。

 そうして生まれたのがこのサイコビロだ。よかった。今回は画像が10枚に収まった。
 初めに赤・緑・黄色に調色したレジンをボディ~台座にかけてぶちまけまくり、それから台座と土台のパーツの隙間を埋めるようにかけて星々を彩る。何週間か前に塗装作業中コロコロ転がって邪魔だった付属の星や天輪のパーツを土台の中に入れたのを忘れたままこの作業をしたので、中に入ったパーツはそのまま一生取り出せなくなりました。ちくしょう。
 そして最後にかぶせたウィッグの出来が悪いところを埋めるように赤のレジン、最後に髪の色に合わせて調色したシアンベースのレジンを事前にかけた赤の上から髪に沿って掛けに掛けた。

 滴り落ちるレジンに同光を当てれば最もいい形で硬化できるかを練習し続けた結果がこれだ。
 美しいだろう。そう思ってくれたなら俺はうれしい。

 ちなみに俺は小細工を嫌うという建前の元めんどくさがりで不器用で大雑把なので、いちいちスポイトだの筆だのにレジンをつけてちまちまやったりはしない。ちょうど空になった綿棒のケースの中にレジンを適当に出し、適当に着色し、そのまま勢いで掛けたりライトを当てたりしている。こざかしいことをするより多少荒くてもダイナミックなほうが芸術は美しい。そうは思わないか。思わなくても、いい。

 でも流石に顔に垂らしたレジンだけは調色に使った塗装用クリップ棒の柄を使いました。すいません。小賢しいことしちゃった。
 でもそのおかげでパッとしなかった顔も塗装面がよくなかった目の下も美しくつやのある深海の涙を流してくれました。よかったです。

 【サイコ】はビロードの中にある葛藤や不条理や矛盾、不合理そのすべてを表している。だから様々な感情の奔流に流され、その子にどっぷりとつかってしまっている。片手に握った友人の姿の人形も役には立たない。ただ色とりどりの感情に押し固められたまま、固まった足を投げ出して哀れにも悲しみの涙で痛みの血の赤を覆い隠そうとするのだ。

 おしまい。

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