人間が長寿になるために研究した者

人間が長寿になるために研究した者

【繰り返される歴史の戦争に終止符を】

最初は普通の魔導研究をする魔導師だった。
彼女は魔族やドラゴン族と同等、もしくはそれ以上の力を得る方法を探していた。
歴史上には大きな戦争が幾度となくあったからだ。種族の争い、領土の奪い合い、人が作り出した兵器の暴走、魔女狩り、様々と。
血塗られた歴史書を読み漁る度に悲しみを覚え涙する。

戦争に完全なる終わりを求めるため、力を得たかった。

まず考えついたことは長寿。

通常の人間より長らく生きる事ができれば力を得るための研究する時間を稼げる。

しかし、それは間違いを犯すことであることをその時の彼女は考えもしなかった。
何百年と生きられる長寿の実験を自身に行った…

【この身体は何百年何千年と生きなければいけないの?】

長寿の実験を自らに施した彼女は自分の身体の成長が止まった(成長が遅い)ことで成功を確信した。
それから力を得る研究に走った。

けどもその最中でも争いは起こり悲劇を目の当たりにする。
彼女は本来あるべき人の寿命を逆らった長寿の力を身に着けたことに誤りがあったことに気づく。
これは長い長い先の歴史を見守りながら災いに苛まれながらも生きなければいけないということ。
怒りや苦しみを目の当たりに常に恐怖に支配されながら長く長く生きなければいけないこと。
そして人が人であるべきことは驚異なる力を身に着けてはいけないということ…
彼女は悟った。
形はどうであれ争いがあってこそ人は成長する。
死と再生の歴史があるからこそ進化を遂げる。
…自分の考え方が愚かであったことを。

人間はどんなに大きな力を得ても神にはなれない。しかし怒りと悲しみを背負うことで悪魔にはなれる。

まず彼女は長寿になる為の力を記録した書物を他のものが手にしないよう燃やした。
魔族やドラゴン族の様な力を求めることもやめた。

時に心が壊れそうになる
自身が悪魔になってしまうのではないか
人である自分が人を怯えさせる存在になるのではないか
考えた。
考えた。
壊れないように考えた。

記憶の中にある長寿になるための力を応用して治癒の能力を身に着けた。
これは戦場や病で苦しむものを助ける力となる。
そしてそれは自分自身の心を救う力にもなった。

【もし私が壊れたら貴女が持つ力で…】

長く生きてきた彼女はアデプトソフィアと呼ばれるようになっていた。
高位魔術を持つ聖女。人は彼女の治癒の力に敬意をもちそう呼んだ。
だが長く生きてきた事で精神が疲れ果てていた。

ある日、彼女は特殊な能力を持つ漆黒の髪の魔法戦士と出会う。
魔法戦士は魔法の力と物理による力の両方を持ち合わせるバランス型のファイターだった。
魔法の力を武器に宿す特殊さと、魔力壁を破壊するという高度な力。
彼女は引き寄せられるように魔法戦士へと近づいた。

長寿になった彼女は普通の人間より長く生きた分だけ得た高い魔力を持っていた。
並大抵の力で落とせることができないほどのバリアが邪魔して自分自身でさえどうすることのできない自分の命に、魔法戦士の力を持ってしてなら自分を落とせる、そう考えた。

だから彼女は魔法戦士に願いを託した。

「もし私の心が壊れ、悪魔になってしまったら貴女のもつ”フォースブレイク”で私の壁を破ってこの心臓を貫いて…」

苦しい願いに魔法戦士は微笑みながらこう答えた。

「私がそうならないようにセーブしてあげますよ
何よりその白い髪、すでに相当力を使い果たしているでしょう。大丈夫、エリスは私達と何も変わりない人間です。」

魔法技術も歴史が進む度に進歩している。

彼女が出会った魔法戦士は人の寿命に干渉されない程度ではあるが体内の時間速度を上げる能力も有していた。
魔法戦士は己の魔力を底上げして彼女の体内時計をゆっくりと正し、同じ時を刻んでゆくことを心の中で密かに誓っていた。

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