【Karte:2】春の訪れ

【Karte:2】春の訪れ

2024年1月27日

この日私は天使の里に来ていた。というのもお正月お披露目のワンオフにピノコがいたからである。無類のBJ好きで既に3人のピノコを我が家にお迎えしている私も、当然のことながらその子をチェックしていた。
しかしどちらかというと様々なメイクを施された子が見たいのと、彼女の愛くるしさや魅力をたくさんの人に知ってもらいたいのであって、積極的にお迎えしたいわけではなかった。
(もし来てくれたら大切にかわいがる前提の話)
記念投票には行きたいがどうも最近腰が重い。ぐだぐだと徒に日だけが過ぎていって結局行かずじまいなのだろうと思っていた矢先、友人の言葉が気だるく閉じかかった目を鋭く覚ますことになる。
「ボークスに需要を知らせるためにも入れてくるべきだよ」
頭上から雷に打たれたような感覚に陥った。確かに求める声が多ければ多いほど供給が増える可能性は高くなり、自ずとメイクのバリエーションもオーナーも増える。最高にwin-winではないか。ようやく心を決めた私は里に行く予定を立てた。

ラナンキュラスの華の会をやっていた日は雨が降ったため、仕方なく予定を変更して1週間遅らせることにした。イベントのない天使の里は大変静かな空気に満ちている。その日のお供は無論、初めてお披露目されたワンオフピノコであるロミちゃん。人もまばらな館内でゆっくり写真を撮りながら、3階にあるワンオフ展示室へと足を運んだ。
そこでは華やかな衣装に身を包んだ美しいドールたちが訪れる者を出迎えてくれる。先にいたグループの会話に少し耳を傾けつつ、ひとりひとりをじっくり見てからふたつの番号に丸をつけて投函箱へと差し入れたのであった。

同年2月13日

以前は天使の里だよりで当選通知発送のお知らせがあったのだが、最近はめっきり見なくなった気がする。そういえばワンオフどうなっただろう?などとぼんやり考えてはいたものの大して身構えていなかった。
いつも通り仕事を終えて帰宅し、塀の内側に備え付けられた郵便受けにちらりと目をやる。壊れたふたの隙間から中身がのぞいており、瞬時に目に飛び込んできたのは白地に淡いグレーで記された"your angels are"という文字。
見覚えと心当たりのありすぎるそれに一瞬時が止まった感覚がしたのだが、何を意味するのかはすぐにわかった。
「おわーーーーーっ!?マジか!誰だ?誰が当たったんだ!????」
衝撃の事実に辺り構わず叫んでしまい(迷惑)、頭がいっぱいになりながら誰もいない家に入って真っ先に封を開けた。中には書類が入っており、3つ折りのものを取り出して広げてみるとそこには当選した子の情報が書かれていた。
「ベルだ!」

前々からいつかベルとご縁があったらなと密かに思っており、ワンオフやベスセレで機会があった時にラブレターを送ってはフラれていたのである。来てくれることになったベルのメイクを担当されたのはCieraさん、ドレスを作られたのはS-エターナルメイデンさん。憧れのアーティストさんからメイクを施され、憧れのディーラーさんのお洋服をまとった憧れの子。SD生誕25周年という節目に素晴らしいご縁が舞い込んできた。
早速テーブルに申込用紙を広げてペンを走らせ、必要事項欄を埋めていく。当選は2度目であるが本来の手続きは初めてだったため、戸惑ったり迷ったりしながらも何とか全ての項目への記入を済ませ、封筒に入れてその日のうちに返送した。
(ロミちゃんの時は再度送ってもらった用紙を持って行って支払い、その日にお迎えした)

同年3月2日

帰りのことを考慮して誰も入っていない空っぽのスリムスーツケースを携え、在来線と新幹線を乗り継いで私は再び天使の里を訪れた。天気予報によれば気温は低いものの天気はいいはず……だったのだが、嵯峨嵐山駅に着いた私を出迎えてくれたのちらつく雪であった。おかしいなと首をひねりつつ、はやる気持ちを抱いてまっすぐ里の入口へと向かった。
受付を済ませてスーツケースを預け、かごを借りていそいそと地下へと降りていく。ショップのカウンターをのぞくと先にお迎えに来ていた方がいた。対面を目前にしてまさかのお預けをくらい、お洋服やウィッグのコーナーとカウンターをそわそわしながらずっと行き来していた。
ようやくカウンターが空き、送られてきた書類を提示して連れてきてもらう。金字で箔押しがされた細長い白い箱も、中に入っていた読本もすっかり見慣れたものである。そして証明書に記名をして箱から布団を出してもらう際、こんなことを言われた。
「すみません、お布団閉まりきってないんです」
その言葉通り、確かに少し開いたファスナーの間からはドレスの裾がはみ出ている。話には聞いていたが、実際にそんなことがあるんだなぁと感心し驚いていると付属品の説明がなされる。ウィッグ、ボンネット、チョーカー、靴、そしてパニエ。てっきりパニエを穿いた状態で入っているものと思っていた私は更に度肝を抜かれた。
フェイスカバーや緩衝材がひとつひとつ丁寧に取り外されると、優しい笑みを浮かべた美人が姿を現した。シャインパールがきらきらと輝き、重ね貼りされたまつ毛は長くふさふさである。ガラス越しに見た記憶よりも、毎日見ていた投稿の写真よりも、その子ははるかに美しくかわいらしかった。
付属していたアクセサリーやウィッグを全て身につけ、借りたかごに彼女を収めて私は地上へと戻ってきた。ポージングをしては眺め、写真を撮っては眺めとずっと彼女に見入っていた。角度によって様々な表情を見せてくれる可憐なメイクに華やかさを極めたドレス。素晴らしい子をお迎えできた幸せをしばらくソファに座って噛み締めていた。
彼女の麗しさが目を引くのか、ワンオフですか?と時々声をかけられながら館内でゆっくりと撮影やお茶を楽しんだ。少し早めに帰り支度を始めたのだが、布団の余り具合に疑問を抱いたり原状回復ができなくて諦めたりしつつも何とかスーツケースに収め、天使の里をあとにした。帰りの新幹線の中で、そんなにたくさん撮ってないなと思いながら画像を取り込もうとしたところ70枚以上撮っていて思わず笑ってしまった。

そんなこんなで診療所は新しいメンバー、クローリスを迎えてよりいっそう賑やかになるのであった。

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